タイ・バーツ/USドルの為替レートの推移(1980~2024年)


金融不安:ファイナンス・カンパニーの業務停止の影響、1兆バーツ(約270億ドル)ともいわれる金融機関の不良債権が経済にとって過重な負担になる。
4.


(シンガポールドル), =, 116.035, JPY(日本円)

域内調整:東・東南アジア地域の国際水平分業ネットワークが進んでおり、域内交易の円滑化のために、今後さらにアセアン内での為替レート調整が予想される。

今回の通貨危機は、その下げ幅といい波及の広がりといい、決して一過性のものではない。

(3) アセアン諸国の経済への影響

これまでタイやマレーシアは、米ドル並みの水準に自国通貨を維持することにより、

1.

Exchange Quotations
下表通貨のお取り引きに際しては必ず三菱UFJ銀行の本支店の店頭でご確認いただきますようお願いいたします。
なお、公表仲値(TTM)は、TTSとTTBの中間の相場であり、(TTS+TTB)/2で算出されます。
米ドル、ユーロの外貨現金両替相場は以下のとおりです
*1:100通貨単位につき円 (Yen per 100unit)
*2:TTBは参考相場 (TTB is for reference only)
*3:IDRは参考相場、100通貨単位につき円 (Reference only, Yen per 100unit)


相場は11時過ぎに変更します (Table will be updated around 11:00)
CodeはS.W.I.F.T.通貨コード (Code:S.W.I.F.T.

AUD, (オーストラリアドル), =, 98.345, JPY(日本円)

海外直接投資は自国通貨の減価によって、より多くの資金を要することとなり、一時低調となろう。

(4) 米国のアジア積極戦略への影響

海外事業展開の面では、政治・経済両面で対アジア積極戦略を展開しようとする米国にとって、貿易収支入超の改善(輸入品の値下がり)、新市場事業投資戦略での優位性の確立、ドルの価値の誇示など、極めて好ましい結果と戦略上の好環境とを手にしたといえよう。ミャンマーのアセアン加盟反対という米国の声を無視したアセアンに対する米国の報復説や、投資家ソロス(GeorgeSoros)氏による投機、米欧による意図した東アジア潰し、などとアジアが不満を述べる所以もそこにある。

7.わが国からの進出企業への影響

(1) わが国の直接投資

タイは、戦後早くから輸入代替型産業などの進出企業も多く、東南アジアのなかでわが国企業馴染みの深い国である。96年末の日本企業のタイへの事業進出社数は、製造業で出資比率10%以上のものだけで1,289社に及び(東洋経済『統計月報』)、直接投資総額では100億ドルに達する(大蔵省)。わが国の貿易額に占めるタイとの貿易は3.5%にとどまるが、タイにとってはわが国は輸出の17%、輸入の29%(いずれも96年実績)を依存する国である。そしてまたタイには、わが国企業が80年代後半から東・東南アジアに幅広く構築してきた部品生産基地のネットワーク、国際水平分業展開の一つのハブとして、多くの部品および最終製品工場が進出している。

この度の通貨危機はその下落幅の大きさ、地域各国通貨への波及など、高成長を謳歌してきたアジア、特にアセアン諸国にとっては大きなショックであった。タイに、そしてアジアに大きなインボルブメントを持つわが国企業にとっては、アジアにおける生産分業ネットワーク構築を続けながらも、アジア経済の脆弱性から戦略の再検討を迫られている。

(2) 進出企業への影響

今回の為替ショックにより、設備・増設資金を米ドルなど外貨で調達し、為替ヘッジを行っていなかった企業は、直接的影響を避けられまい。また、多くの企業は、コスト・アップや内需の低迷による売り上げ減少が避けられないが、個々の企業については、製造業・サービス業など業種や業態の違いや、原料・部品の購入先・輸入先と決済通貨、ならびに販売先・輸出先と決済通貨如何により、その影響度は異なる。産業別に大まかな特徴を挙げてみると、以下の通りである。

1) 自動車産業

日本、NIEs、アセアンからの幅広く、6割以上の部品や材料を外貨建てで輸入する一方、製品の大部分を地場通貨で国内に販売するため、採算のかなりの悪化は避けられまい。為替変動によるコスト増に見合う値上げは難しく、すでにいくつかの自動車関連産業の操業停止が伝えられている。

2) 電子・電器産業

商品の7割以上はアジア域内から外貨建てで輸入し、製品の大部分は外貨建てで輸出しているため、直接的影響は少なかろう。しかし電力料金、人件費、付加価値税などコスト上昇要因が多く、相応の影響は避けられまい。

3) 繊維・衣料産業

原料はおおむね地場調達・地場通貨決済であり、製品はほとんど米国など先進国向け輸出・外貨決済のため、競争力を回復しよう。電力料金、人件費まどコスト上昇は為替差益で吸収したいとしているが、輸出先からの値下げ圧力が強まると予想される。

8.わが国企業・経済への影響

わが国にとってアジアは、貿易額で41.0%(96年度)、直接投資先としては24.3%の関係にあり、そのうち3分の1をアセアンが占める。わが国企業が製造業、サービス業を問わず、投資資産の減価や、支店、現地法人の収益源を通じて、業績に影響があることは否めず、金融業ではアジア・リスクの再検討が求められるとともに、為替ポジションに応じ、また現地融資先業態の変化などに伴い、影響が出よう。

また、95年半ばの円安転換とともに、アセアン通貨の対円相場は急騰し、これがアセアンの輸出減少の一因となったが、今回の変動後は円高に転じ、8月末にはほぼ95年の水準に戻しているため、事情は逆転しよう。

わが国企業のアジアにおける生産基地ネットワーク展開のための投資は、円為替の相対的な上昇により有利となるが、混沌の後だけにしばらくは沈静化しよう。当面はアジア経済の低迷は否めず、わが国経済にも影を落とすこととなろう。

9.「アジアの時代」は再生可能か

(1) 今世紀末、再び成長軌道への一歩

タイをはじめとするアジアの国々は、70年代以来、先進工業国から積極的に資金、技術を導入し、産業の移転を受け、後発の利益を充分生かしながら工業化を進めてきた。発展が急であったため、生産要素投入量の偏重、組織・人心の弛緩など、成功の影にいろいろと取り組みを要する課題を生んだ。

しかし、タイをはじめとするアセアン諸国の経済は、この数年にわたり7~9%もの成長を遂げてきており、その産業基盤が崩壊したわけではない。たしかに、金融機関による不良債権処理、個々の企業によるバランスシート調整、経営戦略の再構築などにかなりの努力と時間が必要であろう。また、公共料金の引き上げや賃上げに対処すべく、リストラも求められよう。しかし、タイのみならずアセアン諸国の指導者が、成長の「勢い」への過信と安易な経済運営を反省し、これまで成長を支えてきた事業・産業の活性化に注力する一方、新たに裾野産業の育成や金融システムの整備、技術開発力の涵養など産業構造の未充足な部分の補完・拡充を進めることにより、21世紀を前に「アジアの時代」の再生に向けて、再び歩度を高めることが可能になると考える。

(2) 「アジアの時代」再生に向けての諸問題と市場原理至上主義

しかし、「アジアの時代」の再生に向けては、いくつかの問題や課題があることも事実である。

輸出志向型産業育成の推進と米国市場への依存、東アジア全域を覆いつつある過剰生産、貧富の格差の拡大、グローバル化で拡大する市場と市場原理への過信などがそれである。

特に、今回のタイ・バーツに始まるアセアン通貨危機は、新古典派経済学を信奉する市場原理万能論者の主張に基づき大国が推進している、グローバル化そのものへの疑問点、問題点をクローズアップしたともいえる。すなわち、対象とする市場が極めて多種、多元的でありながら、均質な経済主体の参加により成り立つ市場均衡理論を掲げ、自由化こそ最善かつ世界に求められる秩序であり、自由化によってこそ均衡の効率性、経済厚生の広域的向上が期待し得るとして、貿易、投資、金融のグローバル化がいま推し進められている。

モノ、ヒトについてはその需給量に自ずと制約があり、諸条件が揃えば市場メカニズムの作用により均衡を期待できようが、カネ(および為替、情報)の場合、供給サイドは、いわゆる信用の創造機能により、市場規模を凌ぎ、どこまでも巨大化し得る性格を持つ。

市場の規模を大幅に上回る巨大なカネが、小さいながらも開かれた市場を席巻したとき、市場原理に基づく均衡を期待することには無理があろう。

今回のタイを中心とした為替ショックは、基本的には経済成長の「勢い」を過信し、慎重・的確な経済・金融のマネジメントがなされず、事実上の米ドル・リンクという為替運営にも無理があったことに起因したものといえる。しかし、膨大な資金が短期間に、いまだ成育期にある小さな市場を席巻したことから、対象となったタイおよびアセアン諸国経済の混乱は必要以上に大きく、かつ長期的な経済負担を課されることとなった。

市場メカニズム信奉をいま一度見直すとともに、いやしくも市場の自由化・グローバル化が経済覇権確立のための手段とならぬよう、市場にとって友好的な秩序造りが必要であろう。

この点については、『オブザーバー』誌のエディターWill Hutton氏の「Relaunching Western Economies/(日本語訳)保護主義か、金融市場の規制か」(『ForeignAffairs』96年11/12月号)、元ハーバード大学ビジネススクール客員教授Dr.David C.Kortenの『When Corporations Rule the World/(日本語訳)グローバル経済という怪物』や、内橋克人氏の『規制緩和の悪夢』などがすでに警鐘を鳴らしており、最近では、あの国際投資家ジョージ・ソロス氏が『季刊アスティオン』(97年秋号)に収録の論文「資本主義の脅威」で、「英米主導のレッセフェール政策の脅威の方が全体主義イデオロギーの脅威より影響力が大きい」と述べている。巨大市場のプレーヤーの言だけに実感がある。

今回の通貨変動を機に、いまひとつ考えさせられた点である。 >>>>

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