昭和40年の1万円を、今のお金に換算するとどの位になりますか?
これはまだ断言できないが、もう一つの可能性としては、日本の家計が収益性は低くても円資産を愛好するという、いわゆるホームバイアスが弱くなっていることも考えられる。筆者の知る限りでも、以前から富裕層の中には円資産からの逃避(少なくともリスク分散)を始めている人が少なくなかった。これに加えて最近では、株式投資を始めた若者は日本株ではなく、米国株など海外に投資する人達が多いようだ。仮にホームバイアスが本当に弱くなっているとすれば、これは日本の財政の持続可能性にとっては重要なリスクとなり得る(「日本国債は日本人が持っているから大丈夫」とは言えなくなる)。
過去5営業日分の為替レートを表示します。 1米ドル, 1豪ドル
こうした広い意味での日本の国力の低下が強く意識されるにつれて、今後、日銀が短期金利を含めた金融政策の正常化を始めても、急激な円高は生じにくいとの見方が広がっている。最近では、「異次元緩和」以前の1ドル=80円台、70円台の円高再来はもうあり得ないと考えられているだけでなく、一部には「2023年初の1ドル=120円台後半まで行くかどうか」といった声さえ聞かれる。2023年9月短観の想定為替レートが135円程度であったことを踏まえると、120円台後半の円高が企業収益に及ぼす影響は限定的だろう。かつては円安で企業収益が膨らんでも、賃上げには消極的な企業が少なくなかった。為替相場次第の収益増は不安定であり、先行き相場が円高に振れる可能性がある以上、簡単には下げられない賃上げの原資にはできないと考えたからだろう。逆説的ではあるが、足もと企業から賃上げに対して前向きの発言が聞かれるのは、日本の国力が衰えて急激な円高が進むリスクへの警戒感が薄れているからかも知れない。
これは、1990年代初頭の不動産バブル崩壊時の北欧、1997年のアジア危機時の韓国経済などが、いずれも自国通貨の大幅な減価をきっかけに急回復したのとは対照的である。経済に負のショックが起こるたびに円高になるという規則性があることは、日本がなかなかデフレから抜け出せない一因だったとも考えられる。逆に言えば、所得収支黒字に支えられた巨額の対外純資産は、決して国内に還流しない「張り子の虎」だと理解されたことで、大幅な円安につながっている可能性がある。
ドル円相場の歴史~トレンド転換となった過去のイベントを整理する
改めて冒頭の図表1をみると、日本円が一番強かったのは25年余り前の1990年代半ばだった。これと比べると、リーマン・ショック後の1ドル=80円台、70円台は実質実効ベースでは、それほど極端な円高ではなかったのだが、既に競争力を失いつつあった日本の産業界は円高是正を強く求めた。その結果が「異次元緩和」という名の円安政策だったが、その後の10年余りで競争力の立て直しが進むことはなく、そこに「レパトリ神話」の消滅が加わって、現在の極端な円安になったと言うことができよう。
このように貿易収支やサービス収支は赤字傾向にあっても、(第一次)所得収支は大幅黒字のため、経常収支は現在でも黒字基調を維持している。しかし、所得収支黒字の大半を占める海外現地法人の利益は基本的に現地で再投資され、国内に還流することはないため、為替相場にはほとんど影響しないと現在では理解されている。実は、この点の理解が変化した影響が大きいのではないか。以前はとくに海外投資家の間で、世界最大の対外純資産を抱える日本への資本還流(repatriation)が起これば、急激な円高が起こる可能性が常に意識されていた。実際にかつては、日本経済に負のショックが加わると、1990年代前半の不動産バブル崩壊時も、リーマン・ショック時も、東日本大震災の時ですら、必ず急激な円高が生じたが、その背後には、この「レパトリ神話」が影響したと言われている。
【日経】円ドル相場・人民元相場など為替の最新ニュース、債券市場の最新動向をお届けします。
次にサービス収支に目を転じると、今年はインバウンド観光が急回復して、旅行収支を通じてサービス収支の赤字が大幅に減ることが期待されていた。実際、中国人旅行客の戻りの鈍さにもかかわらず、円安効果にも助けられて旅行収支自体の黒字は大幅に拡大しているのだが、その割にサービス収支全体の改善は今一つにとどまっている。ここで多くの専門家が注目しているのは、「その他サービス収支」の赤字が拡大して、旅行収支の改善の大部分を食いつぶしている点である。
こうして日本の輸出はますます自動車一本足打法となりつつある。その自動車の生産や輸出に関しては、一時期半導体不足に悩まされていたが、足もとではその制約が緩和されつつある中で順調な増加を続けており、まだしばらくの間、日本の輸出は自動車が支え続ける可能性が高い。しかし、ここ数年の間に日本の自動車産業はEVの開発・生産の面で米国や中国の企業に明確に遅れを取ってしまったことは否定できない。また少し前までは、「EVの本格普及にはまだしばらく時間がかかるため、その間はHVの時代が続く」との見方があったが、最近は予想を上回るEVの低コスト化や普及を背景に、そうした意見を聞くことも少なくなった。これらを踏まえると、やや長い目で見た場合、自動車頼みの日本の輸出構造には不安を感じざるを得ない。
消費税率が異なる場合があるため、参考小売価格(税抜)を使用しています。 2023年
次に貿易収支の内訳をみると、かつては家電製品やコンピュータ・半導体などが日本を代表する輸出品であったが、今ではこれらは輸入超過に転じている。このため、近年では自動車と資本財が日本の輸出の2本柱となってきた。ところが、最近では資本財に関しても輸入の増加が目立っており、2本柱の一角に変調がみられているのだ。
ここで年代からの対外収支の推移を振り返ってみると、かつての日本は貿易黒字大国だったが、リーマン・ショック以降は製造業の海外移転などを背景に、しばしば貿易赤字を計上していることが分かる(図表)、とくに年以降はロシアのウクライナ侵攻を契機にエネルギーや食糧の国際市況が大幅に上昇した結果、巨額の貿易赤字を計上したことは周知の通りである。
アメリカ ドル / 日本 円【USDJPY=X】:為替レート・相場
米ドル対円相場(仲値)の推移をグラフ(短期・長期)で見ることができます。