Toll様受容体 (Toll-like Receptors)
そして2015年2月、清水さんたちはTLR9の構造解析にも成功しました。この研究の中心となった准教授の大戸梅治さんは、こう言います。「実は、構造解析を始めたのはTLR8より早かったのですが、苦戦していました。ようやく解析できてホッとしました」
どういう点で苦労したのでしょうか。「X線結晶構造解析を行うには、構造を知りたいタンパク質をたくさんつくり、それがきれいに並んだ大きな結晶をつくらないといけません。ところが、結晶に必要なTLR9のタンパク質をつくれなかったのです」と大戸さん。タンパク質解析を行う場合は普通、そのタンパク質の遺伝子を大腸菌や酵母などに導入してつくらせます。「あらゆる細胞を試しても駄目でした。たまたまタンパク質の発現にはあまり使われないS2というショウジョウバエ由来の細胞を使ってみたら、ようやくTLR9がつくれるようになりました」
これでうまくいくかと思われましたが、ヒトのTLR9は十分な量がつくれませんでした。そこで、サルやウマなど7種類の生物のTLR9を試しました。種によってアミノ酸配列や性質は少しずつ違いますが、CpG DNAを認識するという根本的な機能は同じです。最終的に、ウマとウシとマウスのTLR9について構造解析を行うことにしました。
ところが、TLR9と微生物由来のCpG DNAと反応させても、TLR9が活性化しないのです。「また途方に暮れました」と大戸さん。解決のヒントはTLR8にありました。「TLR8とTLR9にはZループと呼ばれる構造があります。活性化されているTLR8では、そのZループが切れていました。そこでTLR9のZループをあらかじめ切ったら、無事、活性化されました」
こうして、ようやくできたTLR9とCpG DNAの複合体の結晶をSPring-8の構造生物学ビームラインで解析しました()。「結晶は100 µm(0.1 mm)と小さく、十分な大きさではなかったのですが、1.6 Åという非常に高い解像度のデータを取ることができました。X線が高輝度で非常に強く、高い平行性を持ったSPring-8でなければ、これほどの高解像度での構造解析は難しかったでしょう」と大戸さんは言います。TLR9とCpG DNAは2対2の比率で結合して、2量体を形成していました。CpG DNAはTLR9の溝にはまり込むことで認識されるというメカニズムも明らかになりました。
Toll様受容体とは何ですか?どのように腫瘍耐性を引き起こしますか?
図1.TLRのシグナル経路
TLRリガンドの結合により、細胞質TIRドメインが近接してTLRがヘテロ又はホモ二量体化し、補助因子を召集します。TLRの補助因子はTIRドメインを含む分子で、MyD88、Mal(MyD88アダプター様タンパク質、TIRAP;TIR-関連タンパク質としても知られる)、TRIF(TIRドメイン含有アダプタータンパク質-IFN-β誘導、TICAM-1;TIR含有アダプター分子-1)、TRAM(TRIF関連アダプター分子、TICAM-2;TIR含有アダプター分子-2)、SARMs(sterile alpha and HEAT-armadillo motifs)などがあります。個々のTLRsにより異なるシグナル応答が誘導されることの一因として、このような様々な補助因子を利用していることが考えられます。
図1.老化ならびに神経損傷によるToll様受容体(TLR)の遺伝子発現変化
ウイルスの RNA を感知する Toll 様受容体と 輸送に関与 ..
本研究では,最初にToll様受容体が発見されたショウジョウバエを用い,老化,ならびに神経変性との関係を調べました。自然免疫応答はショウジョウバエからヒトに至る,すべての動物種に備わっており,ショウジョウバエには9種類のToll様受容体(Toll-1〜Toll-9)が存在します。今回,哺乳類のTLRと最も相同性の高い Toll-9の発現が,老化に伴い脳の免疫機能を司るグリア細胞で誘導され,脳内の自然免疫応答のシグナルを調節していることを見出しました(図1)。さらにToll-9を欠損したショウジョウバエでは,酸化ストレス毒性に対する耐性が低下していることも見出しました。
自然免疫応答は,生体内に侵入した病原体をいち早く認識し排除する,生体防御の初期反応を担う重要なシステムです。自然免疫応答では,Toll様受容体(Toll-like receptor (TLR))と呼ばれる一群の膜タンパク質が病原体に対するセンサーとして働き,ヒトでは10種類のTLRが存在します。これらTLRが,それぞれ異なる抗原(病原体の構成成分)を認識し下流のシグナルを活性化することで,病原体などの異物を排除します。このように生体にとって保護的に働く自然免疫ですが,近年,自然免疫応答の慢性的な活性化が,アルツハイマー病の病態を悪化させる可能性も報告されており,TLRと神経変性の関係には,いまだ不明な点が多く残されています。
Toll 様受容体(TLR,Toll-like receptor)は最初に
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典)・研究所・認知症先進医療開発センター・神経遺伝学研究部の榊原泰史 研究員,山城梨沙 研究生(名古屋市立大学大学院),関谷倫子 副部長,飯島浩一 部長らは,生体防御反応である自然免疫応答のシグナルが,アルツハイマー病患者の脳に蓄積しているタウタンパク質の引き起こす神経変性に対して,保護的に働いていることを明らかにしました。
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Toll様受容体TLR7はグアノシンおよび1本鎖RNAを認識する
Toll様受容体が持つ特徴的な馬蹄形は「ロイシンリッチリピート」(leucine-rich repeat)と呼ばれるアミノ酸配列の繰り返しでできている。このモチーフ配列は他のタンパク質でも多く用いられており、特に他のタンパク質に結合するタンパク質でよく見られる。阻害剤(ribonuclease A inhibitor、PDBエントリー 、図示はしていない)などの場合、ご想像の通りタンパク質は馬蹄形の内側に結合する。ところがToll様受容体の場合は、対象分子は馬蹄形の側面にある窪みに結合する。これは細菌のリポタンパク質(lipoprotein)を認識するToll様受容体(ここに示すのはPDBエントリー )で特に明確で、受容体にある深い窪みが脂質鎖を取り囲む。この構造を拡大して見るには、画像の下にあるボタンをクリックして、対話的操作のできる画像に切り替えてみて欲しい。
もちろん、この手法はToll様受容体が敵意ある分子を認識するためのものであって、私たち自身の分子を認識するためのものではない。いくつかの型で構造が解かれているが、ここに示すその中の一つは、受容体の細胞外部分のみを含む構造(PDBエントリー )で、35塩基対以上の長さがある2本鎖RNA断片を認識する。(transfer RNA)とマイクロRNA(microRNA)に含まれる2本鎖領域は通常これより短く、細胞内に長い2本鎖RNAが存在することはまれである。そのため長い二重らせんRNAが存在することは、ウイルスがいることを示す有力な信号となる。
Toll様受容体をターゲットとする創薬 (医学のあゆみ 278巻6号)
この世界は細菌とウイルスで満ちあふれており、その全てがしきりに細胞へ感染しようとしている。私たちはこの絶え間ない攻撃に対して2つの防御手段を持っている。まず最初に働く防御手段は自然免疫系(innate immune system)で、一般的な攻撃者のほとんどを対象として警戒を行い、攻撃者を発見すれば素早く防御を行う。この免疫系は動物、植物、菌類など広く見られるもので、ほとんどの生物ではこれが唯一の防御線となっている。一方、脊椎動物は第2の防御線となる獲得免疫系(adaptive immune system)も兼ね備えている。事態がより深刻になって自然免疫系では防ぎ切れなくなると、侵入者に合わせて作られた(antibody)や侵入者と戦う強力な白血球部隊を使ったこの獲得免疫系が防御を引き受けるようになる。
toll様受容体の意味・使い方・読み方 | Weblio英和辞書
自然免疫系は一般的な敵と戦えるよう生まれつき備わっているもので、例えば細菌や菌類による感染の検知に特化したショウジョウバエ(fruit fly)の「Toll(トル)タンパク質」が自然免疫系で働くタンパク質の一つとして挙げられる。私たちの細胞ではこのTollに似た、Toll様受容体(toll-like receptor)と呼ばるタンパク質が10種類あり、個々に特有な、細菌やウイルスに由来する分子を認識している。ここに示すのはその一種で、多くの細菌細胞の細胞壁で見られるリポ多糖(lipopolysaccharide、赤色の部分)を認識する。このような外来の分子を見つけると、Toll様受容体は病原菌と戦うため炎症反応(inflammatory response)を引き起こす。この反応は非常に重要である。例えば、Toll様受容体の信号伝達経路の一ステップが欠損しているマウス(ハツカネズミ)は口内で一般的にみられる常在菌の感染で死んでしまうことも珍しくない。
[PDF] 11 自然免疫におけるToll様受容体の活性制御機構の解明 清水 敏之
Enzo Life Sciences社では、TLR(Toll様受容体/トールライクレセプター)の各種リガンドを取り揃えています。
の戦略として、本来は病原体に対する自然免疫応答惹起の受容体である Toll 様受容体(TLR)の 1 つである
Toll様受容体(TLR)は、宿主への病原体侵入の感知と応答に関わるパターン認識受容体(Pattern Recognition Receptors、PRRs)のファミリーに属する膜貫通型タンパク質1, 2です。1989年の「コールド・スプリング・ハーバー・シンポジウム」の講演で、イェール大学医学部免疫学部門の教授であったチャールズ・ジェーンウェイ(Charles Janeway)は、この「パターン認識機構」の存在を予言し3、それ以後大阪大学の審良静男教授を始めとする様々な研究者4, 5が、TLRの実在を明らかにして来ました。TLRは主として自然免疫を担当する細胞に発現しています。細胞表面に存在するもの(TLR1、TLR2、TLR4、TLR5、TLR6、TLR10)および細胞内のエンドソーム膜に発現するもの(TLR3、TLR7、TLR8、TLR9)があり、またマウスではTLR10相当を欠く12種類(TLR1~9、11~13)のTLRが存在することが知られています。TLR1~TLR9に関してはそれぞれを活性化するTLRリガンドが同定されており6、代表的なものは、グラム陰性菌のLPSなどのリポ多糖類やリポペプチド、運動性細菌の鞭毛構成タンパク質であるFlagellin、細菌・ウイルス由来の非メチル化CpG DNAやssRNA、dsRNAなどがあります。TLRを介したシグナル伝達経路は炎症に関わる遺伝子の発現誘導や免疫応答に重要な役割を担うため、TLRリガンドを利用した抗感染症、抗腫瘍、抗アレルギーやワクチン研究7などが盛んに行われています。
マスト細胞のToll様受容体 (生体の科学 64巻5号) | 医書.jp
私たちの周りにはウイルスや微生物などの病原体がたくさんあります。病原体が体内に入ってくると疾患を引き起こします。そうならないために、生物には何重もの防御機構が備わっています()。
まず、病原体を体内に入れないことが重要です。病原体を皮膚で跳ね返し、涙や鼻水で洗い流します。しかし、そうした物理的な防御を擦り抜けてしまうものがいます。そこで働くのが、食細胞やリンパ球などのさまざまな免疫細胞で構成される免疫システムです。病原体が体内に侵入すると、自然免疫が働き出し、マクロファージや樹状細胞などの食細胞が、病原体を捕食します。一方で、樹状細胞は食べた病原体の断片を細胞の外に掲げてリンパ球のT細胞に病原体の情報を伝えます。すると獲得免疫が働き出し、キラーT細胞やB細胞などのリンパ球が特定の病原体を強力に攻撃します。
「自然免疫はあらゆる病原体を攻撃します。だから、食細胞は手当たり次第に病原体を食べているだけだと考えられていました。ところが食細胞は、どんな病原体であるかを認識して自然免疫反応を活性化し、サイトカインというタンパク質を放出して病原体を攻撃していることが分かってきました。病原体を認識する自然免疫の代表的なセンサーがTLRです」と清水さんは説明します。
TLRは1997年に報告されて以来、さまざまな生物で次々と見つかり、ヒトでは10種類が知られています。それぞれ認識するものが異なり、例えば、TLR4はリポ多糖、TLR5は細菌の鞭毛を構成するフラジェリン、TLR3は2本鎖RNA、TLR7とTLR8は1本鎖RNA、TLR9はCpG配列を含むDNA(CpG DNA)を認識します。CpG配列とは、塩基のシトシン(C)とグアニン(G)がホスホジエステル結合でつながったものです。
TLRは細胞膜にあり、外に出ている馬蹄形の細胞外領域と、中にある細胞内領域から構成されます。何も結合していないTLRは分子1個の単量体で存在しています。病原体由来の物質が結合すると、2個の分子が結合した2量体になり活性化します。すると細胞内領域にタンパク質が結合し、「こういう病原体が侵入したぞ」という情報が伝達され、自然免疫の反応が起きるのです()。
「TLRがそれぞれ何を認識するのかが分かってくると、次はそれがTLRとどのように結合し、認識するのかを知りたくなります。そのためには立体構造を詳しく調べることが近道です」と清水さんは解説します。「TLRの立体構造は、2007年くらいから次々と解析されてきました。そうした中で立体構造が不明なまま残されていたのが、TLR7、TLR8、TLR9でした。私たちは、それらの立体構造を明らかにすることを目指しました」
特集 生殖と自然免疫 母児接点におけるToll様受容体の意義
> > > 自然免疫応答を担うToll様受容体シグナルの活性化が,アルツハイマー病の発症に関わる神経変性に対して保護作用を持つことをショウジョウバエモデルを用いた研究から明らかにしました
Toll様受容体8はRNAの分解物を認識する ~ウリジンが活性化に必須
自然免疫では、病原性の外来微生物などに共通して存在し、かつ宿主には存在しない特有の分子構造(pathogen-associated molecular patterns:PAMPS)を抗原として認識することで、外来微生物などを排除したり、免疫反応を誘導したりする。その際に働く受容体はパターン認識受容体(PRR)と呼ばれ、TLRもその一種だ。
Toll 様受容体(TLR)7 の応答と細胞内ロジスティクス
自然免疫系は、ウイルスや細菌などの病原体が体内に侵入してきたときに、これらを感知し速やかに免疫機能を活性化させ、インターフェロンなどの抗ウイルス分子の産生を促します。Toll様受容体(TLR)は自然免疫系において病原体由来の分子を認識するセンサーとして働きます。中でもTLR3、7、8、9はウイルスや細菌由来の核酸(DNAやRNA)を認識することが知られています。我々の生体内には自らの核酸が多く存在するため、自己由来の核酸を認識することによる誤った免疫応答を避けるために、これらのTLRは細胞中で存在する場所を厳密に制御される必要があります。UNC93B1はこれら核酸認識TLRと結合し、TLRを細胞内の適切な場所に運ぶ役割を果たすことが報告されています。しかしながら、TLRとUNC93B1の詳細な相互作用様式はこれまで明らかになっていませんでした。
「Summary」感染症などにおいて自然免疫応答の端緒となる病原体の認識機構について, Toll様受容体(TLR)を紹介する
Toll様受容体(Toll-like receptor:TLR)は、自然免疫に重要な役割を果たす抗原受容体。1990年代後半に同定されて以来、ヒトでは10種類のTLRが存在することが分かっている。
[PDF] 11. 自然免疫における Toll 様受容体の活性制御機構の解明 清水 敏之
Toll様受容体(トールライクレセプター、TLR)リガンドは、自然免疫応答と獲得免疫応答を結びつける能力を有し、がん、AIDS、マラリアなどの生命の脅威となる複雑な疾患に対するワクチンのアジュバントとして有望視されています。